戻る次へ

 

 「何とかしてあいつに仕返しをしてやりたい」そう思ってある時思いついたの は、ワサビのたっぷり入ったおかずを食べさせてやろうということでした。今迄 の経験から、あいつがおかずを狙うパターンがだいたいわかっていたので、その 日一番狙いそうなのにワサビを入れておいてやろうと。
 そして決行の日、お弁当に入れるおかずの中からウインナーを選んで、その中 を丁寧にくり抜き、たっぷりとワサビを詰めておきました。あいつにわからない ようにうまく作るのはかなりの苦労でした。でも、これを食べたときのあいつの 顔を思い浮かべると楽しみで楽しみで。
 胸をワクワクさせながら学校に行くと、なんとその日にかぎってあいつが休ん でいたんです。元気なだけが取り柄で、今まで学校を休んだことなんかなかった のにどうしてあの日に限って…。せっかく手間をかけて準備をして、結果を楽しみにしてきたのにガッカリでした。
 そして、楽しみがなくなってしまった上に大きな過ちを犯してしまいました。 あいつが休みだということを聞いて気が抜けてしまって、あのウインナーのこと を自分でもすっかり忘れてしまったんです。そしてお弁当の時間、真っ先にウイ ンナーを口に…。
 教室中の注目を浴びてしまい、本当に恥ずかしい思いをしました。「みんなあ いつのせいだ、いつか必ず復讐してやる」と、その時強く強く誓ったのです。

机

 後になって知ったことなんですが、あいつは何とかして俺に仕返しをしようと していたそうなんです。あいつがそんなことを考えていたなんて全く知らず、俺 は毎日のようにあいつの弁当を狙い続けました。
 あいつは何度も何度も罠を仕掛けていたらしいんですが、天は俺に味方してく れていたのか一度も罠にかかることがありませんでした。俺のふだんの行いがよ ほど良かったのでしょう。なんて言うとあいつの行いが悪かったみたいでかわい そうですね。
 あいつってクラスではあまり目立たない方だったんです。でも、すごく真面目 にいろいろ頑張っていたんです。成績も噂によるとかなり良かったみたいだし、 行事の時なんかは積極的に活動していました。誰もあいつのことを悪く言うヤツ はいなかったんです。それなのにあまり目立たなかったというのはどうしてだっ たんでしょう。俺なんか勉強は……だし、元気がありすぎてよく先生に怒られる し、時には先生や親や友だちに少しだけ(?)迷惑をかけることもあるのに、神 様はあいつより俺の方に味方するなんて…。

 
つなぎのカット
 
 復讐を誓ってから幾度となく作戦を試みたのですが、ことごとく失敗に終わり ました。よほどあいつの悪運が強いのか、それとも私にツキがないのか。
 そんなことをしているうちにそろそろ進学先の高校を決めないといけない時期 になっていました。自分で言うのもなんですが、私はけっこう勉強をした方なの で成績もトップクラスでした。ですから先生にはS高校への進学を勧められまし た。私と反対にあいつは勉強なんかしないで遊んでばかりで、成績の良いのは体 育だけだったみたいです。それであいつはY高校に行くことになりました。
 私はどうしてもお弁当の恨みが忘れられず、何とか復讐しないと気が済まなく なっていたのであいつと同じY高校に行くことに決めました。何か変ですよね、 お弁当の恨みから進学する高校を決めるなんて。先生や両親はかなりビックリし て反対しましたが、まさか「あいつにお弁当の恨みを晴らすため…」なんて言え るわけもなく「郊外にあって環境の良いあの学校に行きたい」ということでなん とか納得させました。
 それにしても、これといって自己主張するわけでもなく、すぐ他人の意見に流 される私がどうしてこんなにお弁当にこだわって進学校を決めたのか、自分でも 不思議な気がしました。

 ビックリしました。まさかあいつが俺と同じY高校に進学することにしただな んて。てっきりあいつはS高校に行くものだとばかり思っていましたから。まし て、その理由が俺にあったなんて想像もできませんでした。
 まあ、あいつがどこの高校に行こうがあいつ自身のことなんだから別にいいん だけれど、俺はチョット嬉しい気がして歓迎でした。それは、またあいつの弁当 が狙えると思ったから。
 中学の3年間、よくあいつの弁当をいただきました。感謝、感謝。それにして もあいつは毎日のように弁当を狙われながらどうして怒らなかったんでしょうね。 と、その時俺は思っていました。実際にはかなり怒っていて復讐のために俺と同 じ高校に進学することにしたほどだったんだけれど、俺はまるでそのことに気が ついていませんでした。
 俺って勉強はまるでやらなかったから成績は良くなかったけれど体育だけは得 意で、何をやっても結構さまになっていて、先生に「お前は勉強をする気がない んだったら、せめてスポーツでもやればいいのに」なんて、いやみ混じりに良く 言われました。でも、俺はしなかった。なぜって、別に訳があったからではなく 何となくめんどうで…。

 

 


戻る次へ

おはなしトップへ