高校での生活が始まってもあいつは相変わらず私のお弁当を狙ってくるし、私
は何とか仕返しをしようと考えているし、まるで中学の時と変わらない毎日。私の日課はあいつとのお弁当対決だけで、他にこれといったことのない生活が続きました。
でも、あいつはなぜかラグビー部なんかに入って、毎日泥だらけになりながら練習をしていました。まあ、あいつは運動が得意だったから不思議なことではなかったけれど、どうしてラグビーだったんでしょう。「あんな泥だらけになるのより、他にもかっこいいスポーツがあるのに」と私は思いました。
ラグビーなんか始めたためか、私のお弁当から摘み取るおかずの量が増えてしまいました。今迄はせいぜい一つか二つだったのに、油断をしていたら私のおかずがなくなるほど取られるようになりました。よほどお腹が空いたんでしょうね。
毎日のあいつの攻撃に耐えきれなくなって私はとうとう「あなたの分のお弁当も持ってきてあげるからもう取らないで」と言ってしまいました。それからは毎日あいつのために自分の分とは別にお弁当を作って持って行くことになってしまいました。それも自分のより大きいお弁当だったんですよ。
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高校に入ってまもなくのある日の放課後、何となくグランドに行ってみるとラグビー部が練習をしているところでした。夕陽の中でぶつかり合って練習している姿がとってもかっこよく見えて「俺もラグビーをやってみようかな」という気になってしまいました。理由と言えばそれだけで、あれが他のクラブだったらそれを始めていたかもしれません。
毎日毎日ハードな練習でスッゴク腹が減りました。あいつが俺の分の弁当も作ってきてくれると言った時はビックリしましたが、本当にありがたい気がしました。それはあいつのうまい弁当が、これからは摘み食いをしないで思いっきり食べられるんだから。
それにしてもどうしてそんな気になったんでしょうね。まあいいか、そんなことはどうだって。とにかく毎日あいつが作ってきてくれる弁当をおいしくいただきました。もちろん俺のおふくろも作ってくれていたから毎日弁当を二つも食べていました。
あいつの弁当のおかげなのか俺の体はドンドンでかくなりました。高校に入った頃はそんなに大きな方ではなく、女の子としては大きい方のあいつとそれ程変わらないぐらいだったんですが、いつのまにかあいつがちっちゃく見えるようになってしまいました。
「サンキュー」
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毎日毎日お弁当をあいつの教室まで持って行くものだから、はじめの頃はみんなに特別な関係のように思われていたみたいですが、いつのまにかそれが自然なことのようになって、誰も何とも思わなくなったみたいです。
そんな毎日を送っているうちにそろそろ進路について考えないといけなくなりました。高校を選ぶとき私は「恨みを晴らすため」なんて思って、あいつと同じ高校を選びました。しかし今度はあいつ、遠くの町の大学に行くことしたようです。あいつはラグビーがかなり上手いらしく、本人はもちろんその気だし、周りの人もあいつにK大学に行くように勧めていました。さすがに今度はあいつにくっついて行くのはあきらめました。私はこの町を離れて遠くに行く気がなかったし、なんといっても「恨みを晴らそう」という気がなくなっていましたから。
私はこの町にあるA大学に行くことにしました。私には大学に行きたいという気持ちがなかったし、だからといって就職しようという気持ちもなかったし、とにかく何かをしたいという気持ちがなかったので、とりあえず近くのA大学にでも行っておこうかということになりました。先生や両親は成績の良かった私に他の大学に行くことも勧めたのですが、私はべつにどこの大学でもよかったから。 |
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高校生活の全てをラグビーだけで過ごしたという感じです。気がつくともう卒業の時が近づいていました。俺にはもうラグビーしかなかったので大学に行ってもラグビーを続けたいと決めていました。うちのチーム自体はそんなに強いものではなかったので、いろんな大会でもそれほど良い成績をあげていたわけではありません。しかし俺自身の技術はなかなかのものだとみんなに誉めてもらえました。自分でもけっこういけると思っていましたから、是非これを生かしたいと思ってK大学に行こうと決めました。
何と言ってもK大学はラグビーではかなり有名な大学だったし、勉強はまるでやらなくて成績もさっぱりという俺でしたが、あそこなら何とかなるだろうと先生も言ってくれたので、ここしかないと決めました。この町を離れるのは少し寂しい気がしましたが「ラグビーをやる」という信念がありましたから一人で頑張ってみようと思いました。
それにしてもあいつには世話になりました。毎日のように弁当を持ってきてもらって。当然のように受け取っていたけれど、考えてみるとあいつには俺に弁当を作ってくる義理はなかったわけで、本当にすまなかったと思いました。さすがに今度はあいつ、俺と同じ大学に来ることはなく、この町のA大学に行くことに決めたので、もう弁当は食べられなくなりました。残念でした。長い間世話になったことだし最後にあいつに何かお礼しないといけないかなぁと思いましたが、とうとう何もしてやることはありませんでした。
「ゴメン」
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