大学に進学してからも、私はこれといって変わったことのない毎日を過ごしていました。学校へ行って授業を受け、友達に一緒にやろうといわれたハンバーガー屋さんのアルバイトをするという生活を続けていました。
そんなある日、ふとつけたテレビでラグビーの放送をしていました。そしてそこにあいつの姿が映っていました。アナウンサーの口から何度もあいつの名前がでているし、画面にもよく登場するし「ひょっとしたらあいつって有名な選手なんだろうか」そんなことを思いながら懐かしくなって見続けていました。テレビの中で走り回っているあいつって、スッゴク生き生きと輝いていて、とってもかっこ良く見えました。「あいつは自分の夢を力一杯生きているんだなぁ」と、とてもうらやましく思いました。
それに引き替え私といったら、とくに希望があるわけでもなく、毎日毎日が同じ事のくり返しで、とってもつまらない生活を送っていたんですね。
ふと、あいつに手紙を出していました「テレビで見たよ、頑張ってね」とだけ書いて。
しばらくしてあいつから返事が帰って来ました。「おまえの手紙を見て無性に弁当が食べたくなった、そのうちまた作ってくれよな」って。あいつの頭の中にある私のイメージってお弁当のことだけ?
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無事K大学に入学することができ、念願のラグビー部で一生懸命汗を流すことができるようになりました。始めのうちは新入部員ということであまり活躍する場面もありませんでしたが、次第に俺の実力を認めてもらえるようになり、やがてうちのチームの中心メンバーとして活躍できるようになりました。テレビで放送される試合でも登場する機会が増え、友達から「テレビで見たよ」と電話がかかって来たり、俺のファンだという人からファンレターが届くようになりました。結構いいもんですねファンができるって。
ある日、そんな手紙の中にあいつからのが混ざっていました。「テレビで見たよ、頑張ってね」とだけ書かれたものでしたが、無性にあいつの弁当が懐かしく、食べたくなってしまいました。
高校を卒業してから、もう長い間あいつの弁当を食べていませんでした。「あいつは今どうしているんだろうなぁ」「今でも毎日弁当を作っているんだろうか」などと考えているとジワジワとあいつにもらっていた弁当の味が口の中に広がってきてしまいました。あいつに返事を書きました「おまえの手紙を見て、無性に弁当が食べたくなった、そのうちまた作ってくれよな」って。
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あいつから「おまえの手紙を見て、無性に弁当が食べたくなった、そのうちまた作ってくれよな」なんて手紙が帰ってきたものだから、私も何となくその気になってしまいました。学校が休みのある日、あいつを訪ねていってお弁当を作ってやることにしました。
あいつは最初、冗談だと思っていたみたいですが、本気だとわかると「クラブの仲間達の分も作ってやってくれ」なんて図々しいことを…。「まあ、ついでだからいいや」と思って作ってやることにしましたが、あいつらの食べることといったら半端じゃないのでちょっとビックリしました。作り過ぎたかなと思うぐらい作ったのにまるで足らなくて「もっと作ってくれ」なんて言うんです。でも、あいつらがおいしそうに食べてくれているのを見ていて私は嬉しくなっていました。迷惑だと思いながらもあいつのためにお弁当を作り続けていたのは、あいつが「うまい、うまい」と言って食べてくれるのが嬉しかったからなんだ。
その時、私は決めたんです「私、お弁当屋さんをやろう!」って。私の作ったお弁当をみんなに食べてもらおうと決めたんです。この時、私は変わりました。今まで何の目的も持たずに学生生活を送ってきましたがこの瞬間から目的に向かって歩き始めました。学校に通いながら本格的に料理の勉強や店を開くための勉強を始めました。 |
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ビックリしました。突然あいつが「お弁当を作りに行く」って言ってきたものだから。確かに「弁当を作って」なんて手紙に書いたけれど、まさか本当にその気になるなんて思っても見ませんでしたから。
うれしかったなぁ、あいつの作ってくれた弁当は本当にうまかったから。俺一人で食べないで、クラブの手料理に飢えた連中にも食べさせてやりたいなと思って「クラブの仲間達の分も作ってやってくれ」なんて頼んでしまいました。あいつには、たくさん作らせるのが悪いかと思いましたが、気持ちよく「いいよ」と言ってくれたから助かりました。
久しぶりのあいつの弁当はうまかったなぁ。クラブの仲間も大喜びで思いっきり食べていた。あいつはみんなの食べっぷりにかなりビックリしていたみたいだけれど、何だか嬉しそうだった。
突然、あいつは「私、お弁当屋さんをやろう!」なんて言いだしました。この日のことがきっかけであいつがお弁当屋を始めるなんて、何がきっかけになるか分からないものですね。俺自身も高校に入ったときにたまたま見たラグビーの練習が自分の将来を決めたのだから。
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